まずはここから始めたい重要ポイント。中小規模の製造業におけるBCP策定の基本。

都市化が進んだ社会をひとたび自然災害が襲えば被害は甚大です。豪雨や台風等の気象災害も年々激甚化の度を増しています。企業の事業継続は単に自社の生き残りだけでなく、そこに暮らす人々の自助とも密接に関わっています。
今回は、なぜ中小規模の製造業にBCP策定が求められるのか、どのように策定すればよいのか等をご説明します。

中小規模の製造業には特にBCPが必要

大規模災害によって企業が倒産するのは発生直後だけではありません。東日本大震災が起因とみられる倒産は12年経った今も継続※1。直接被害のほか取引先や仕入先の消失等による関連倒産が今も全国で発生し、災害のダメージがいかに尾を引くかを物語っています。
特に製造業はサプライチェーンの輪が一つ外れると影響が広範囲に及びます。そのため大手企業は供給責任を果たすため、自社のBCPだけでなく仕入先にもBCP策定を求める等してサプライチェーンの管理体制を強化しています。実際、大手企業のBCP策定率は2022年で33.7%と、2016年から6.2ポイント上昇※2しており、要求に応えられない中小企業はボトルネックとなるため、取引の中止も十分考えらます。中小規模の製造業にとってBCPは非常時の事業継続に加え、平常時における取引先との契約継続にも資する取り組みと言えるでしょう。
※1:帝国データバンク「全国企業倒産集計(2023年2月報)」
※2:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)」

BCPの目的

1)従業員の命・安全を守る
BCPにおいては、身体・生命の安全確保が最重要です。従業員が被災すれば、その後の復旧を進めることや、事業を継続することが困難になります。
2)建物や生産設備を守る
従業員の安全が確保できても、建物や設備が被害を受ければ事業継続はできないため、ハードを守る対策を事前に講じる必要があります。また、ライフラインが絶たれても、事業継続はできません。特に工場は照明や機械等の電源確保が必須であるため、非常用発電機や蓄電池の準備と同時に、高圧受電設備を守る対策が不可欠です。
生産に必要な材料・部品が欠けても事業は滞ります。前述のように、製造業はサプライチェーンが分断されると影響が甚大。分断は自然災害のみならず感染症の流行や事故・火災等でも起き得ます。

今やサプライチェーンは取引範囲が世界規模のため、自社が被災したとしても取引先が被災しているとは限りません。そのため日本経済団体連合会(経団連)は、あらゆる事象を想定した「オールハザード型」のBCPと、サプライチェーンの強靱化を企業に要求しています。不測の事態に対応できる事業継続力が製造業ではより一層求められる時代になっています。

BCP策定の流れ

次にBCP策定の大まかな流れをご紹介します。
1)BCPの方針・体制を決める
BCPの推進体制は、すでに防災体制がある場合はそれをもとに構築することが効率的。中小規模の製造業は従業員数が限られているため、災害対策本部下に置くチームも平常時の業務をもとに編成するとよいでしょう。
2)被害想定を確認する
災害によって従業員、建物・設備、ライフライン、サプライチェーンにどのような被害が出るか、それが事業継続にどのような支障をもたらすか、あらかじめ想定し、洗い出します。想定どおり被害が出るとは限りませんが、それがないと課題が分からず、対策を講じることができません。社内各部門の協力を得て、起こり得る被害を細かく想定することが重要です。
3)優先事業を決め必要業務を洗い出す
災害によって経営資源(ヒト・モノ・カネ)が不足すれば、限られた資源を重要度の高い中核事業に投入し、優先的に復旧・継続することが求められます。中小規模の製造業は売上の大部分を一つの事業が担っており、それが優先的に復旧・継続させるべき重要度の高い中核事業となります。
中核事業を見極めたら、それを構成する重要業務を洗い出します。中核事業が『製品の製造・供給』だとしたら、受注段階でいえば「営業活動」「原価計算」「見積書作成」等があげられます。見落とした業務があると、それが事業復旧の際のボトルネックとなるため、洗い出しは必ず業務を担っている従業員と連携して行います。
そして優先すべき業務を洗い出したら、それを継続させる対策を整理します。被害想定にもとづいて、重要業務をいつまでに、どの水準まで復旧させるかを決めていきます。
4)代替戦略
限られた経営資源を中核事業へ重点的に投入し、復旧・継続させる戦略を説明してきましたが、これに対し、不足した経営資源を他から補って事業を継続することが「代替戦略」です。
人であれば業務のマニュアル化や標準化、建物・設備であれば他拠点への移動や協力会社との相互支援等が考えられます。原材料・部品であれば、平常時から予備資材の確保や仕入先の複数化といった対策も有効です。

BCPの策定に向けて

BCP策定の流れを見ると、自ずと社内体制や経営基盤の見直しにつながっていることがわかります。中小規模の製造業は日頃から社員同士の距離が近く、コミュニケーションが取りやすいため、より円滑に進められることが強みでしょう。
ただ、社内だけでBCP策定に取り組もうとすると手間や時間がかかり、専門的知見が不足しがちなのも事実です。取引先の選定に際してBCP策定状況の確認や、提示を求める企業も出てきているなか、自社で策定したBCPの内容や精度を客観的に確認するのは困難です。主体性を持ちつつ、外部のコンサルタント等の力を借りてBCP策定を進めるのも一つの手でしょう。